その昔、加治屋組がまだ教室勤務をしていた頃のおはなし。
インドネシアはジャカルタでアジアシリーズのコンペがあり、
それはそれはすごいVIP待遇でした。
空港のお出迎えから専用のリムジンバスの用意、
そして大渋滞でまったく動かない高速道路を
パトカー2台が先導してサイレン鳴らしてガンガン道を空けさせ、
バスはそこを悠々と進んで行きます。
でも高速道路の周りは、テレビで観るような、いわば貧困層の住宅街。
泥水で洗濯をし、もうすぐにでも壊れそうな家屋の前を
素っ裸の子供たちがなすびみたいなお腹で走り回っていました。
ものすごく衝撃的な光景でした。
日本ではまず体感する事の出来ない現実。
きっと彼らは目の前の高速道路も、そこを走っている車もバスも、
それに乗っている人たちのことも、
後ろに見える雑木林と何ら変わりなく
いつもの日常のひとつの風景として、
ただ通り過ぎて行くだけなんだと思いました。
お互いの生活からは、まったくの別世界。
僕たちは冷房の効いたバスに乗り、彼らは冷房というものすら知らない。
僕は彼らを認識できたけれど、彼らに僕たちは映らない。
お互いに現実味はないであろう現実に、すごく複雑な気持ちになりました。
それでも屈託なく笑って走り回る子供たちに、少しだけ現実を忘れる事が出来ましたが…
バスはお構いなしに車をどけさせ、進みます。
それから1時間ほどでブランドショップが立ち並ぶ大都市ジャカルタに到着。
道路は4車線もあるのに、内側2車線は金持ち専用レーン。
高級車や冷房の効いた2階建てバスが走っています。
外側2車線は、これもテレビでしか見たことないような人でぎゅうぎゅうの
窓ガラスもないボロボロのバスが走っています。
夜はあまり出歩かない方が良いですよ、と
ダンス関係者に言われたことが心から理解できます。
(実は夜出歩いてみましたがちょっとこわかったです、当時は若かった
)
しかし日中は至ってふつうの大都会。
たまに変な人たちが荷物を持ってくれようとしたり、
小雨が降れば相合傘をしようとしてくれたり、
少女が手作りのアクセサリーを見せてくれたりと
なんだか油断なりませんでしたが、
近くの超大型ショッピングセンターで当時の世界ファイナリストが
いちゃいちゃしながら歩いてたりと、街はすごく平和でした。
観光ではおそらく垣間見る事の出来ない世界を
ほんの少しでも知ることが出来たことは、
この世界に入って良かったと思えるひとつのことです。
試合結果はもう忘れてしまいましたが、
あの時見たあの子供たちの姿は忘れることはないと思います。
もしかしたらあのあと運良く僕たちの世界に入ることができたかもしれないし、そう願ってしまうことはおこがましい事だけれども、
今日も変わらずあの笑顔で、あばら家の前を
なすびみたいなお腹で走り回る彼らは
僕の中で変わりはありません。
嫌な事やめんどくさい事が多い世の中ですが
彼らの笑顔が僕をこの世界に留まらせてくれるひとつの糧になっていることは確かです。
自分の努力次第でどうにかなる世界にいることが必然では無く、
ただ運が良い事なのだと気付かせてくれた、貴重なアジアシリーズでした。
世界平和みたいな酔狂なことを言うつもりはありませんが、
運の良いひとりの日本人として、
自分に悔いのない人生を歩んで行きたいと思います。










